黒神
鹿児島桜島の黒神部落-いくたびかの噴火で溶岩流に呑み込まれたところ-。島田力雄一家は、ここに生きている。厳し過ぎる自然環境に立ち向かうには、ただひたすらの労働しかない。力雄と、妻よし子は、炎天下、密林のような未開墾地に挑み、敷き草で腐植土をつくり、果樹を栽培し、暗い海に出て漁をする。お婆さんののぶは、朝早くから軽石で埋まった蔬菜畑を耕す。文字通り汗とほこりにまみれた毎日である。 労苦を知らぬ子どもたち、一雄とユキエは、そのような中にあって明るく伸びやかに育っている。ときに彼らの心は、重く厳しい自然を美しい詩に変えさえする。盆踊り、焼酎片手に踊り狂うこのときは、普段の辛い労働を忘れ、村人は皆、祭りに酔う。桜岳を前にした広い溶岩原に、一群の人間が雄叫びをあげる……。 いっときの解放のあとには、再び自然と対峙する苦しみの日常がはじまる。炎天にうずくまるのぶ...